中小・ベンチャー企業における知的財産経営は日本の競争力強化のカギに
[2006/03/17]
三好秀和氏
「中小企業やベンチャー企業が自社の技術力を強みにする知的財産戦略を構築して実践することは,日本経済全体の競争力強化にもつながるため重視しなくてはならない」。三好内外国特許事務所会長で弁理士・三好秀和氏は,このように指摘する。企業における知財業務や産学連携などの実情に精通し,日本弁理士会・中央知的財産研究所副所長などを歴任する同氏に,中小・ベンチャー企業における知的財産経営の重要性について聞いた。
(まとめは日経BP知財Awareness編集部)
日本の競争力強化を図る上でカギとなる「中小・ベンチャー企業の競争力」
日本では,「市場に参画している企業数が多すぎる」といった指摘がある。確かに,企業が多いことでの弊害も存在するかもしれないが,多くの企業が市場に参画するメリットもある。 例えば,「オリンピックのメダル獲得数はどうしたら増やせるか」との議論で,「競技の実力はその競技の選手層の厚さに大きく影響される」との見解がある。こうした考え方は,企業間,ひいては国際的な研究開発競争においても当てはまると思う。「選手」,すなわち参画企業や研究者が多いことで,日本国内での競争が盛んになり,切磋琢磨し,世界において戦い抜ける強い選手や技術が生まれる。その意味では,大企業だけではなく中小企業やベンチャー企業が,日本の競争力強化を図る上では重要な役割を担っている。 従来,中小・ベンチャー企業の競争力は,主に大企業との力関係から,「中小企業に研究開発力はない」,「大企業の下請や従属的な存在」といったステレオ・タイプを通して捉える場合が多かった。ところが,近年は両者の関係をアライアンス(協力)という側面からとらえる動きが出ており,特に研究開発に関してそうした動きが活発になっている。さらに興味深いことは,中小・ベンチャー企業側からの要請だけでなく,大企業側もこうした動きに能動的な姿勢で臨んでいる状況だ。 「協働」が大企業と中小・ベンチャー企業の双方に事業機会の拡大をもたらす 大企業は自社の技術シーズを基に最終製品を生み出す力がある。しかし,中には,期待した市場の大きさと比較して,その製品の現実的な市場規模が小さいために自社が主体となった事業化に踏み切れず,せっかく創出した技術を休眠させてしまう場合がしばしば生じている。これは,優れた研究成果を活用できないというデメリットのみならず,研究者のモティベーションを維持するという面において,もったいないことである。 近年,先進的な大企業や団体組織の一部が,大企業にある休眠特許を,第三者である中小・ベンチャー企業に開放して活用を図る「オープン・コラボレーション」などの動きが生じていること,また,大企業からの「カーブ・アウト」あるいは社内ベンチャーの起業などは,こうした状況が背景にある。「協働」は,中小・ベンチャー企業の慢性的な課題,例えば「優れた研究者が集まりにくい」「研究開発投資が企業体力で賄いきれない」,「情報技術(IT)など技術が複合的な産業分野では,優れた技術を1つ持っていても事業化のオプションが限定的にならざるを得ない」などを解決するためにも役立つと思う。 中小・ベンチャー企業による知的財産経営への支援が重要だ 企業の規模に関わらず,協働においては,双方の技術の具象化と権利化が重要だ。そのための「ツール」が特許権などの知的財産権であり,有効に活用するための知財戦略の構築が大きく影響する。さらに,中小・ベンチャー企業の場合は,技術開発における大企業との提携を考える上だけでなく,技術を基に自社の事業や企業価値を安定化し,向上していくための「知的財産経営」が不可欠である。知的財産権を持つことによって,社外への提案能力が高まり,契約交渉などの際も,自社の事業戦略を明確化できる。つまり,知財戦略とは,事業戦略そのものなのである。 国の知的財産戦略本部が策定している「知的財産推進計画」,あるいは文部科学省の「科学技術基本計画」では,中小・ベンチャー企業の知的財産への取り組みを,重点的な施策目標として掲げている。もちろん中小・ベンチャー企業が主体的に取り組んでいくべきだが,実際には「知的財産にまで手が回らない」という状況ではないだろうか。中小・ベンチャー企業の自主的な取り組みを促進する上でも,例えば,公的な機関や現場に近い組織が,積極的に働きかけていくべきである。従来の売上競争に代表されるような「ナンバー・ワン」志向の経営から脱皮し,知的財産を有効に活用して,他の誰もがその分野では太刀打ちできないと認めるような「オンリー・ワン」志向の経営へ転換していくことは,中小・ベンチャー企業のミッションであり,同時に,日本経済の最重要のミッションである。
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